ねえ、気付いてる?
貴方は眠っているときも優しい顔をしていること。



その表情がとても愛しくて。



眠っているのをいいことに、私は貴方のおでこに口付けを一つ落とすの。




















MARRY ME?










「何なのよ、もう」










ぼそ、とつぶやいて、薫はいまだ夢の中にいる隣の男を見やった。
二人の上に掛けられているはずの布団が、薫の体にかけられている。
閨(ねや)を共にするようになってから、剣心が無意識のうちに薫の体に布団を掛けるようになっていたのだ。



一方の剣心の体には       何も掛けられていない。



そのせいか、剣心は少し寒そうに身を縮めている。
今の剣心の状態を見て、薫が布団を掛けてやろうと思ったのは自然な流れといえよう。
そして、薫は思ったことを実行に移した。
自分に掛けられている布団を、剣心の体にも掛けようとしたのだ。

さすがに一枚まるまる剣心に掛けると自分が寒いので、半分だけではあったが。










ところが、薫の掛けた布団を剣心はまた彼女に返してしまうのだ。
どうやら、自分の体に布団が掛けられたことで、薫の体には何も掛けられていないと勘違いしたらしい。










「何なのよ、もう」



同じ台詞を口にして、薫は再び剣心の体に布団を掛ける。
が、三秒とかからず、剣心はその布団を薫の方に押し戻した。
その動作に目をぱちくりさせたが、少しむきになってまた同じことを繰り返す。










薫が布団を剣心に掛ける。
剣心が布団を全部返す。










また薫が布団を掛ける。
そして、剣心が布団を押し戻す。



その繰り返しであった。










「だから、半分あげるって言ってるのに・・・」
体に染み付いた習性なのだろうか。
笑っていいのか、怒っていいのか分からない。
そっとため息をついて恋人の寝顔を見下ろしていたが、やがて妙案を思いついたらしく、薫の口角が上がった。

「これならどう!?」

薫はやおら自分に掛かっている布団を引っつかむと、それを全部剣心の上に被(かぶ)せた。
そして、剣心が押し戻せないように布団の両端を手で押さえる。



これなら剣心も簡単には戻せまい。



そう考えてのことだった。
薫の予想通り、布団の下で剣心がもがいているのが分かる。
ひょっとしたら起きてしまうかも、という考えが頭をよぎったが、それは一瞬で消えた。










私が半分掛けなおしてあげるのを剣心が戻しちゃうのが悪いんだから。










そう自分の中で納得させ、薫は剣心の意識が覚醒するのを待った。










       な、何事でござるか!?薫殿〜・・・










布団の中で目を覚ました剣心の情けない声が容易に想像できて、くすりと小さく笑みを漏らす。
そうなると現金なもので、彼が起きてくるのが待ち遠しくなってきた。
そんなことを考えながら剣心の目覚めを待っていると、しばらくもがいていた剣心の動きが急に静かになった。










「・・・・・あら?」










てっきり目を覚ますとばかり思っていた薫は、拍子抜けした言葉を漏らす。



まさか・・・布団の中が気持ちよくてそのまま寝入っちゃったとか?



おとなしくなった剣心に不安を覚え、おそるおそる布団をめくって彼の様子を窺うが、暗くてよく見えない。
「剣心、寝ちゃったの・・・?」



瞬間、凄い力で布団の中に引きずり込まれた。



「あ・・・ッ」
反論しようにも言葉が出ない。
否、出せなかった。
薫の顔は剣心の胸に押し付けられ、声を発することが出来なかったからだ。

「んん・・・・・ぷはっ!」

何とか呼吸は出来るようになったものの、体の自由は剣心の両腕によって封じられている。
この細い腕のどこにこんな力があるのかと思うほど、剣心の腕は薫をがっちり捕らえて離さない。
「ずるい!騙したわね、けんし・・・・」
そこで剣心の顔を見て、言葉を切った。










彼の瞳は閉ざされたままだったからだ。










「え?起きたんじゃ・・・・・」
「ん〜・・・」
薫の声に反応するものの、どうやら完全に目を覚ましたわけではなさそうだ。
「剣心?」
もう一度声を掛けると、薫の体を抱きしめていた腕が緩み、剣心の手がゆるりと動いた。
その手は薫の存在を確認するかのように彼女の黒髪を撫で、さらりと梳(す)く。
薫の体温を確かめるべく、背中から腰にかけてぽんぽんと触れていく。
やや寝ぼけているのか、その動作は少し慌てているように見えた。
やがて、腕の中にある存在をしっかと認めると、



「薫殿・・・・・」



と安心したように一言残し、剣心は再び深い眠りに落ちた。










       今度こそ、本当に眠ったみたいね。










規則正しい寝息を聞きながら、薫はふと今の状況に気付いた。
剣心の右手は緩く薫の腰に添えられ、左腕には薫の頭が乗せてある。



腕、痺れないのかしら?



素朴な疑問が頭をかすめ、我慢してたら申し訳ない、と思い、薫はゆっくりと身を起こした。
だが、完全に身を起こす前に、剣心の右手に力がこもった。

起こしてしまったかしら、と焦って剣心の顔をそろりと見るが、相変わらず彼の瞳は閉じられたままだ。

ただ違うのは、先程よりも僅かばかり表情が険しくなった点か。
その微妙な違いに気付き、薫は少し思案して再びその身を横たえた。
剣心の腕に薫の頭が乗せられると、彼の表情から険が消えた。



「大丈夫よ、私はここにいるから・・・・一緒に眠りましょうね」



彼の赤い髪を撫でながらそう語りかけると、剣心の表情が安らいだものに変わった。
髪を撫でる手を止めても、先ほどのように剣心の表情が曇ることはない。
それを認め、ほっとしたように薫も体の力を抜いた。
そして、彼の体に己の体をすり寄せ、小さく囁いた。



「ありがとう。私を愛してくれて      



一緒にいよう。
一緒に眠ろう。



しばらく剣心の寝顔に見入っていたが、やがて薫の両目も閉じられた。




















ねえ、気付いてる?



貴方は私に幸せをもらったって言うけれど、私だって貴方から大きな幸せをもらっているのよ。
そう言ったら、貴方はきっと「拙者がもらった幸せのほうが大きいでござるよ」って答えるのかしら?










ねえ、剣心。



もし、その『幸せ』が目に見えるものなら、お互いの『幸せ』を繋ぎ合わせられればいいのにね。
そうすれば、もっと大きな『幸せ』になると思わない?










今だってこんなに幸せなのに、もっと大きな『幸せ』を願う私は欲張りかしら?



でも、心がそうしたいって言っているの。

心がもう、離れないって言っているの。










貴方も同じことを考えているの?










それなら。




















運命を二人で確かめよ?















【終】

企画室




DREAMS COME TRUEの「MARRY ME?」でございます。
寝ぼけて慌てている剣心を書いてみたかったので←でも書けなかった・・・(泣)
だからかな、今回は珍しく短めです。

あまり剣心が深く眠るシーンは出てきませんが、薫がそばにいれば安心して眠れるのではなかろうか・・・・つか、そうであってほしいです。
原作では眠っている剣心の傍らに巴さんがいるっていうシーンがありましたけど、やっぱ剣×薫でもそういうシーンはほしいし・・・
実際問題として、人間、熟睡しなきゃもたないでしょ。



ここで一句

「ないのなら 作ってみせよう 剣心の安眠」

・・・字余り そして季語もなし(爆)



薫の素朴な疑問「腕枕して、腕が痺れないのか」。
σ(・_・ )も不思議に思っています。
まー、お互いそれで安心できるっていうんなら何も言いませんが。
個人的には腕枕より、剣心の胸板に頭を乗っけてもらいたいですね〜♪
んで、薫の黒髪が広がって・・・・・きゃー、きゃー、きゃーッ←興奮度MAX

二人はマッパなのか否かというご質問には、ご想像にお任せしますとしか申し上げられません。
アシカラズ(笑)