【閑話】
頭が割れるように痛い。
私のせいで剣心が戦っているのに、頭痛になんて負けてられない。
そう強く念じれば比例するように頭痛も酷くなる。
せめて見届けなければ、と視線を外さずにいるが目の前が蜃気楼のように揺らめいた。
ふわり。
空から降ってきたものに薫は我が目を疑った。
雪?
確かに春はまだ先だが、雪が降るような天気ではなかったはずだ。
その証拠に、空にはくっきりとした満月が浮かんで いなかった。
あるのは真っ黒に塗りつぶされたような闇。
何もないはずの闇からふわふわと雪が降っているのだ。
薫は視線を戻した。
正面で剣心が刀を振るっているのは分かる。
だが対峙しているのは刃衛ではない数人の男達。
浅黄色の羽織で揃えた彼らは、姿だけではなく剣先も一様に剣心に向けている。
その中で一人立ち向かう剣心に真っ白な雪が舞い落ちる。
これは幻?
絶えず響く剣の音に頭の痛みは増すばかりだ。
と。
こと切れていたとばかり思っていた男がやおら半身を起こし、刀を剣心に向かって突き出した!
剣心も気付いていたが、彼は別の人間と応戦しており、視線を向けるだけしか出来ない。
文字通り命をかけた一突きは狙い違わず剣心の体を貫き、鮮血が白雪に彩りを添えた。
辺り一面に血の臭いが広がり始める。
シ ナ ナ イ デ !
それは自分が発した言葉なのか。
叫びは雪景色を吹き飛ばし、薫の意識は鎮守の森に戻った。
しかし剣心が目の前で傷つき倒れているのは先ほど見た幻と同じだ。
なぜ怪我をしているの?
それは斬られたから。
誰に?
敵に。
どうして?
私を助けるために。
なら誰が彼を助けるの?
そんなことは決まっている。
私があなたを守る。
手首を少し動かすとこきりと音がして、彼女を戒(いまし)めていた縄がするりと解けた。
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