イトシイヒト  【前編】



薫を抱きかかえたまま、しゅ、と腰紐を引くと彼女の体が僅かに強張(こわば)った。
しかしそれに構わず衿に手をかけ、そのまま寝巻きを剥ぐと、薫の白磁のような肌が露(あらわ)になった。

普段太陽の下で見るそれは張りのある健康的な肌色であるのだが、こうして薄暗い中で見てみると薫の肌が透き通るほど白く見える。

まるで薫自身が光を放っているかのように、剣心の瞳には眩(まばゆ)く映る。
その神々しいまでの裸身を目にし、剣心はしばし言葉を失った。



「け、剣心、私・・・」



愛する男と身も心も繋がる喜びと、未知の世界に足を踏み入れることへの恐怖から、薫の声が震える。
そんな薫をやさしく抱きしめ、剣心は彼女の艶やかな黒髪を撫でた。

何度か繰り返すと剣心の体温に安堵したのか、薫の体から余分な力が抜ける。

それを確認すると剣心も自分の寝巻きの腰紐を取り払い、衣を肩から滑らせた。
薫は羞恥のためかまっすぐ剣心を見つめることが出来ず、僅かばかり顔を背けている。
すでに身を隠す衣はないが、それでも少女ならではの無意識の反応だろうか。
両手で自分の胸を隠している。
剣心がそっと耳元で囁いた。










「大丈夫だから・・・・薫殿の全てを拙者に見せて・・・?」










艶を含んだ彼の声に引き寄せられるかのように、薫の瞳が剣心に向けられた。

二人の視線が絡み合う。

剣心は薫の唇に触れるだけの口付けを落とし、彼女の身を夜具に横たえた。
そうすると、自然と薫に覆いかぶさる形となる。
ふと、薫が何かに気付いたかのように視線を移した。



「傷・・・・・」



ぽつりとつぶやいたかと思えば、薫の細い指が剣心の肌を滑った。
灯りを落とした部屋の中で、薫の指は的確に剣心の傷跡に触れていく。










私・・・・この傷、知っているわ。










剣心の左頬から始まり、そのまま首筋、肩、胸と傷のある箇所をなぞっていく。

中には、薫を守るために負った傷もある。
その傷に触れると、薫の目尻から涙が伝った。



「薫殿・・・」



剣心は左肘をついて上体を支え、右手で彼女の涙を掬(すく)う。



「ごめんなさい・・・・・痛かったよね?」



言いながらも、薫の手は依然剣心の傷跡を撫でている。
剣心は黙ってされるがままにしていたが、薫の指に触れられるたびに何かが己の中で蠢(うごめ)くのを感じていた。
彼女の行為は、剣心からしてみれば薫がぎこちないながらも己に愛撫しているようにもとれる。
無論、薫は労わりの気持ちをこめて傷跡に触れているだけと分かっているのだが、触れるか触れないかのぎりぎりの接し方が却って剣心の情欲に火を点ける。



不意に、傷跡に触れる薫の手を掴んだ。
そして彼女の指を自分の唇で丁寧に愛撫する。
やがて剣心の愛撫は、指から腕、肩に沿って続けられた。
剣心の愛撫に対してどうしてよいか分からない薫は、頬を紅潮させながら彼の行為をただ見ていることしか出来なかった。

「剣       

その時、首筋に痺れにも似た甘い痛みが走った。
剣心が薫の首筋に赤い華を咲かせたのだ。
剣心は満足そうにそれを見た後、同じように薫の肌にいくつもの華を咲かせた。



しかし、薫の鎖骨に彼の唇が落とされると、さすがに薫も慌てた。
次に剣心が触れるのがどこなのか本能的に悟ったからだ。
自分の胸を隠す腕に、無意識のうちに力がこもる。



困惑に揺れる瞳に剣心が気付き、薫の唇に自分の唇を押し当てた       少なくとも、薫にはそう思えた。
しかし、すぐにやわらかくて生暖かい何かが自分の唇を割って侵入してきた。



「んぅ!?」



それが剣心の舌であると理解するのにさほど時間はかからなかった。
思わず身を捩(よじ)ったが、すぐに剣心の力強い腕に抱きすくめられ、無駄な抵抗に終わった。
その間にも剣心の舌が薫の口腔内を犯し始める。
やがてそれは薫の舌に触れ、逃さぬように絡めとられた。

「ん・・・はぁ・・・」

早くも息があがり始めた薫を見て、彼女が息継ぎしやすいように誘導する。
初めての行為で薫の体が強張ったが、やがてくたりと力が抜ける。

二人の唇が離れると、とろんとした瞳で剣心と見つめる薫に出会った。

もう一度口付けを交わし、剣心はそっと薫の腕に手をかける。
自分の胸を隠す薫の腕は、先ほど交わした深い口付けによって力が抜けたようで、剣心は難なく薫の腕をどけることが出来た。



横になっても形が崩れない若い乳房がそこにあった。
それに吸い寄せられるようにして、剣心の手が伸びる。










「はぁんッ」










弾力のある乳房をゆっくり揉みしだくと、薫の甘い嬌声が上がった。
その声に煽られるようにして、剣心は唇で挟みこむようにして左の乳首を刺激する。
すでにぴんと屹立している薫の乳首を、剣心は舌で転がすように舐めた。



「は、やだ、だめぇッ!」



剣心から与えられる快楽から逃れようとするように、薫は切なげに眉根を寄せる。
堪えるかのように敷布を握り締め、四肢が突っ張っている薫を見て、剣心の中で小さな悪戯心が芽生えた。
今までやさしく揉み上げていた乳房を、ぐ、と強めに揉んでみる。



「アッ」
「薫殿・・・何が駄目?」



かり、と軽く乳首を噛むと、薫の体がびくん、と跳ね上がる。
思ったとおりの反応を見せる少女に、剣心はくすりと笑みを漏らした。
掌で乳房を弄びながら、絹のような肌の感触を楽しむかのように、薫の肌に頬ずりする。

「薫殿、可愛い・・・・」
「剣、心」

剣心の愛撫に翻弄され、息も絶え絶えになりながらも、潤んだ瞳で彼を見つめる。
ゆらゆら揺れる少女の瞳、酸素を取り込もうと半開きにしている濡れた唇は、まさに男を誘う女のそれ。
昼間は無邪気に輝いていた少女の瞳が、今や妖しく光っている。










俺が彼女の中に眠る『女』を呼び起こした。










征服感にも似た高揚した感情を抱きながら、少女の首筋に舌を這わせ、剣心の手が下降していく。
だが、その手は薫によって制止された。



「薫殿」



拒絶されたかと落胆する心を隠すため、出来るだけやわらかい声音で声をかけると、
「わ、私、あの・・・」
困惑したような薫の声が聞こえた。
どうやら、自分でも気付かぬうちに剣心の手を掴んでしまい、薫自身混乱しているようだ。
剣心は身を起こして薫の顔を覗き込んだ。










期待と恐怖。










薫の瞳には、その二つの感情が同居している。
いくら剣心の愛撫によってその姿を悩ましく変化させても、薫は正真正銘の生娘なのだ。
たとえ相手が剣心であろうと、初めて男に抱かれることに対して不安を感じないわけではない。
否、相手が剣心だからこそ、己の中に潜む不安を押し殺していたのだ。



その証拠に、見よ。



彼女の双眸(そうぼう)には今にも溢れんばかりの涙が光っているではないか。










少々悪戯が過ぎたか。










我を忘れて彼女の体を貪(むさぼ)っていた己を恥じた。
剣心は愛撫の手を止め、きゅ、と薫を抱きしめた。
「すまない薫殿。怖がらせてしまったようでござるな」



安心させるように額に口付けを落とすと、違うの、と薫が首を振る。



「剣心が悪いんじゃないの。私が何も知らないから・・・」
今にも泣き出しそうに顔を歪めている薫は、大きな失敗をしでかして怒られるのを覚悟しているような子供のようだ。
怯えにも似たその表情を解きほぐすかのように、剣心は薫の小さな顔に口付けの雨を降らす。



「薫殿、薫殿が何も知らないのは悪いことではござらんよ。知らないことはこれから知っていけばいい」
「うん・・・」
頷く薫の表情はまだ硬い。
まずは薫の恐怖心を取り除いてやらねば先には進めないと判断した剣心は、やおら身を起こした。

「剣心?」

彼が己の体から離れるのを見て、嫌われてしまったのではないか、と瞳を曇らせる。
しかし自分の体を起こした剣心は、薫の手をとって彼女の体をも起こしたのだ。
剣心の思考が読めない薫は、問いかけるような眼差しで彼を見つめることしか出来ずにいた。
その視線に気付いた剣心は、
「薫殿」
と呼びかけて、彼女の細い肢体を己の腕の中に閉じ込めた。

こうやって抱きしめられると、剣心は意外と胸板が厚く、逞しい体つきをしていることが実感できる。

「あ、の?」
剣心の体温を感じ、心臓の音を聞きながらも、薫には彼が何をしようとしているのかさっぱり分からない。










「こうやって抱きしめられるのは大丈夫でござるな」










いつもと変わらぬ笑みを絶やさぬまま、剣心は薫の顎に手を沿え、花びらのような唇に軽く口付ける。
「これは怖くはござらんか?」
同じように頬、額、瞼、鼻にも触れる程度の口付けを落とすと、
「ふふ、くすぐったいわ剣心」
と笑みを浮かべて身を捩った。



「もう少し、深く口付けても?」
「ふ、深くって・・・さっきみたいにその・・・」



舌を絡めて、とはさすがに言いにくい。

薫が言いよどんでいると、剣心はくすりと笑みを漏らし、
「拙者と同じことをしてくれればよいのでござるよ」
具体的に説明することはしないが、意味は通じたようだ。
暗闇でも分かるほど、薫の頬が朱に染まっている。



「・・・怖い?」
ちゅ、と頬に口付けると、
「怖いって言うか・・・は、恥ずかしい・・・」
小さな声ではあったが、それでも薫の返事が返ってきた。
「恥ずかしいことなどござらんよ。むしろ、拙者は薫殿にしてもらいたい」










愛しい男の願いを聞き届けない女などどこにいようか。










薫は心を決めて、瞳を閉じた。
それが、薫の答えであった。
剣心は彼女を怖がらせないように、唇を合わせても直接舌には触れず、しばし歯茎を愛撫していた。



「ん・・・」
くぐもった声が聞こえ、その拍子に薫の舌が動いたのだろうか。
彼女の舌が剣心のそれに触れた。
剣心が薫の舌をとらえ、お互いの舌が口腔内で絡まり合う。
健気にも薫は剣心の言葉どおり、ぎこちないながらも舌を動かしている。










もう先ほどのように逃れようとはしない薫に、剣心は思う存分彼女の口腔を味わうことが出来た。










口の中に溜まった唾液をごくりと飲み干したところで、剣心は薫を解放してやった。
「薫殿・・・大丈夫でござるか?」
「ごめん、ちょっと待って・・・」



剣心の肩に頭を乗せ、荒い呼吸を繰り返す薫を気遣うようにして、剣心は彼女の肩を抱いた。
呼吸を整え、顔を上げた薫の唇には飲み干せなかった唾液の雫がつう、と滴(したた)り落ちる。



それを拭うようにして舐めとり、
「怖くはなかったでござるか?」
と問いかける。
「大丈夫よ。ちょっと頭がぼぉっとするけど」
潤んだ瞳が、先ほどの高揚感を剣心に思い出させる。










「薫殿。拙者はこれから薫殿を抱く。だがその前に、薫殿に知ってもらいたいことがある」










改まって言う剣心に、思わず薫の背筋が伸びる。
「知ってもらいたいことって?」



薫の問いには答えず、剣心は無言で彼女の右手を己の中心に導いた。



「け、剣心!?」
「これが薫殿の中に入る。それでやっと薫殿と拙者は一つになることが出来るのでござるよ」

薫の指が剣心の分身に触れた。
その感触に思わず手を引っ込めそうになるが、剣心はそれを許さない。

「薫殿、怖がらないで。これを薫殿に拒まれてしまったら、拙者は       
剣心の眉が悲しげに寄せられる。
その表情を見て、薫の胸がきゅん、と鳴った。










剣心は私を怖がらせないためにやさしくしてくれたのに。










薫は生娘だが、男の欲情が分からないほど初心(うぶ)ではない。

己の欲望をこらえて、薫のために一つ一つ、ゆっくりと怯えさせないようにことを進めてくれている。
剣心の欲情がどれほどのものかは分からないが、さきほどの性急さを見れば何となくだが薫にも分かった。



私のために我慢してくれているのかしら?



ならば、薫も彼に応えなくてはならない。
「・・・これが、私の中に入るのね」

意を決してそっと触れると、剣心の分身がびくりと震えた。

それでまたもや怯んだが、今度はしっかりと手のひらで掴んでみた。
「あッ、薫殿!」
「ごめん、痛かった?」
いきなり剣心に声を上げられて、今度こそ手を離しかけたが、それは剣心によって押さえ込まれた。
「いや、大丈夫でござるよ。ただ、突然掴まれたから少々驚いたというか・・・」



それは本当だ。
触れてくれるとは思ったが、まさか握り締められるとは思わなかった。



「薫殿、怖くはござらんか」
恐る恐るといったように剣心が問うと、ぷ、と薫が吹き出した。
「剣心てば、さっきからそればっかり」
「おろ、そうでござるか」
「そうよ。何かあると『怖くはござらんか』って」
そう言いながら、薫はくすくす笑っている。
「同じ言葉を繰り返してばかりでござるな」
薫につられるようにして、剣心も笑った。










「でも、嬉しかった」
「え?」










笑いを止めて薫を見ると、彼女は微笑んだまま剣心の顔をまっすぐ見つめていた。
「私を怖がらせないように気を使ってくれて・・・すごく嬉しいの。剣心だってその、我慢しているのに」
「薫殿       
剣心の胸が高鳴った。
その途端、呼応したかのように剣心の分身が脈打った。



「きゃあ!?う、動いた?今、動いたわよね?」
いまだ剣心の分身を手にしたままの薫が驚いて彼の顔と分身を交互に見つめる。
くるくると変化する彼女の表情が可愛らしくて、思わず剣心の頬が緩んだ。



「薫殿に触れられて嬉しいのでござろう」
「ござろうって・・・剣心の体の一部でしょう、コレは」
「確かに拙者の一部でござるが、コレは自分の意思を持っているのでござるよ」
「嘘ッ」










もう我慢できない。










「薫殿が触れてくれれば、拙者もコレも嬉しいのでござるよ」

思い切って自分の欲望を口に出すと、案の定、薫は目を見開いてそのまま固まってしまった。
その様子に、剣心は慌てて弁解しようと口を開いた。



「いや、すまない、今のは・・・・・って薫殿!?」



剣心が驚きの声を上げたのも無理はない。
己の分身を薫がぎこちなく、けれどもやさしく撫で始めたからだ。

「かお・・・はぁ・・・」
思わず吐息が漏れる

「こ、これでいい?・・・痛かったら言って・・・」
言いながらも、愛撫の手を休めない。
「何だか硬くなってきたみたい・・・」

指を巧みに使うわけでもなく、ただ手のひらで撫でさすっているだけだが、その幼い愛し方がたまらなく愛おしい。

堪え切れずに先端からぬるりとした液体が滲み出て分身を、そして薫の手を濡らす。
「え、何?剣心、何か出てきたんだけど、大丈夫なの?」
初めて目にする正体不明の液体に、薫の瞳が不安げに揺れた。
そんな薫に剣心は、
「だ、大丈夫でござるよ・・・こ、これは、かお、薫殿に触ってもらって・・・気持ち、いいという・・・」
と、言葉を途切れさせながら答えた。










実は今の剣心はかなりぎりぎりのところで堪えている。
薫の愛撫によって、今にも己の欲望が爆発しそうだ。










「気持ちいい・・・?」
剣心の言葉の意味がいまいち飲み込めないが、それでも喜んでもらっているということは分かった。
「じゃあ、もっと続けてみるわね」
にっこりと純真無垢な笑顔を向けられ、
「ちょっと待った!」



さすがに剣心が止めた。
続けてもらいたいのは山々だが、そうすると剣心一人だけが満足して、薫に性の悦びを与えることが出来なくなる。
さすがにそれは薫殿に対して申し訳なさ過ぎる。










初めて男と交わるのだから、痛みを伴うことは仕方がない。
それが避けて通れないのならせめて薫に『快楽』を与えてやりたい。



薫の愛撫で自分が感じたのと同じように、薫にも自分の愛撫で感じて欲しい。



そう決めていた。






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初めての裏小説は初めての夜で(*^ ^*)ポッ


宿小説「ごちそうさま」の前夜(いや、眠りに落ちたのは夜明け前?)のお話。
剣×薫で、初エッチの朝なんて書いたらこりゃーもう「現場」は避けては通れぬ道でしょう。
裏でなんでこんなに長いんだというつっこみはおいといて(笑)

σ(^^)が希望するケンカオの初夜ということで・・・・・

ちなみにサブタイトルは「いただきます」(爆)
基本はエロで書いたんですけどね(^^;
「正統派→ギャグ→ケダモノ」の順で話がすすんでいくような気が・・・(^^A;アセアセ