「薫殿       
羞恥以上に恐怖に震える薫に気付いて頂を弄んでいた指の動きを止める。
宥めるように妻の黒髪に口づけの雨を降らし、剣心は今しがた自分が座っていた岩場に彼女を下ろした。
そして自分は薫と向き合うようにして湯船に身を沈める。
「分かった、薫殿。もうせぬよ」
見上げる夫はやわらかく微笑む。
その笑みに安堵し、ぎこちないながらも表情を緩めた。

「だから」
「?」

笑みが深くなる夫に釣られ、薫もまた同じ表情で小首を傾げた。










「今度はこちらを可愛がってやろうな」










言うが早いか、剣心は薫の両膝に手をかけ、そのまま左右に広げた。



















帰る前に・・・  【後編】




「きゃああああ!!?!?」
慌てて閉じようとしてももう遅い。
剣心の言葉と笑顔に安心した薫の体は弛緩しきっており、力を入れずともやすやすと広げることが出来た。
広げた足の間にするりと己の体を割り込ませ、逃げ出さないように彼女の細腰に手を回すことも忘れない。



「やだっ、見ないでぇ」
二人の近くにはぼんやり灯る提灯が置かれており、夫が薫の秘所と真向かいになっているのが嫌でも分かる。
先ほど岩場に移動したのは、これも計算に入れていたのか。



剣心だからこそ、僅かな光源でも明確に見分けられるが、今の薫はそんなことまで考えがまわらない。
いや、仮に一切の光がない状態でも、あられもない姿で秘所をさらしているのだから、やはり半狂乱になっていたかもしれない。
今の薫の頭には己を拘束する腕から一刻も早く逃れ、身を隠すことしか考えていない。
だが、腰に巻きついている剣心の腕は、どれほど引き剥がそうとしても肌と一体化してしまったかのようにぴったりと貼り付いている。

「嘘つき・・・もうしないって言ったのに・・・・ッ」

すん、と鼻声で真上から睨みつけられ、さすがに剣心も苦りきった表情になったが、それでも彼女を離そうとはしなかった。
「それは上の部分のことでござるよ。下はまだ愛(め)でておらぬゆえ」
「な・・・ッ」
さらりと普通に言われ、言葉を失った。
「それに・・・・ここで止められないのは薫殿とて同じでござろう?その証拠にほら、こんなに濡れている」
「ち、違う!そんなことない!」
「違わないでござるよ」
薫が手で隠そうとするより先に、剣心の舌が秘所に触れた。










ぴちゃ・・・










「!!」
びくり、と体が反応したのは舐められたからだけではない。
彼に触れられたことにより、新たな蜜が溢れ出たのを自分自身で感じたからだ。



「・・・ね?」
上目遣いでこちらを見る剣心の瞳はどこか挑発するようで。



か、と怒りと羞恥で頬が紅潮した。
しかしそれはほんの一瞬のこと。
「ほら、ここだってこんなに赤くなって。ここで止めるのは些(いささ)か酷ではござらんか?」
言いながらぷくりと存在を主張している花芯を舌で愛撫した。
ぴちゃぴちゃと舌が這い回り、蜜が剣心の口内に流し込まれ嚥下される。
ごくりと蜜を飲む音が薫の耳にも届き、否が応でも高まってしまう。
「いや・あ・・・っ、ふぁ、ん・・・う、は・・・んん!!」
声を抑えようとしても、もはやこらえきれないほど薫は感じてしまっていた。
「け、けん・し・・・!お願い・・・ああん!」
それは夫を制する意味で発せられた言葉であった。
だが、こちらを見上げた剣心は、口の周りを蜜で滴らせながら妖しく笑う。
「そう・・・もっと欲しい?」

言うが早いか、ぐじゅ、と卑猥な水音と共に指を一本蜜壷に突き入れた。

「ひ!?」
息が詰まって、喉を反らせた妻の姿を満足そうに見やり、指を動かした。
「お願いしたのは薫殿でござろう?可愛い女房殿の頼みとあっては、満足するまで励まねば」
「違・・・ひぁっ!」
「今薫殿に触れているのは拙者でござる・・・だから思う存分乱れていいのでござるよ」
否定の言葉を継ごうとした妻の蜜壷に新たに指を入れ、ぐちゃぐちゃとかき回す。
溢れ出た蜜は剣心の手を伝い、湯にぽつんと落ちていった。



薫殿に触れているのは拙者でござる       



次々襲い来る快楽の波に溺れながら、剣心の台詞が脳裏に浮かぶ。










私・・・剣心に抱かれているんだ。










そう理解した瞬間、薫に残っていた理性が吹き飛んだ。
「あ、は・・・ふぁっ、んっん・・・・ッ、けん・し・・・ア!!」
無意識に薫は、彼の頭部を抱え込んでいた。
蜜壷の中で指を泳がせたまま、花芯を吸い上げる。



「や、もうだめ・・・いっちゃうッ」
ぞくぞくとした高ぶりが一点を目指して急速に駆け上がっていくのを感じた。



だが、あと少しというところで剣心は指を引き抜き、立ち上がった。
「はぁはぁ・・・ど、どうして?」
息を弾ませながら切なげに問う妻をやさしく抱き寄せる。
「ここまではただ『触れて』いるだけでござろう?ここからは拙者が薫殿を『抱く』       
唇に張り付いた髪を指で払い、剣心は軽く口づけた。
そして、欲望ではちきれそうになっている刀身を薫の中にゆっくりと沈めていった。



「ふっ・・く!」
「んん、剣心ッ」



完全に奥まで沈めると、お互いの瞳が恍惚と揺れた。
すぐさま律動を開始するかと思われたが、彼はそのまま動こうとはしない。
瞳で問いかけると、剣心は包み込むように微笑み、その笑みと同様薫自身をも包み込んだ。
夫の温もりが心地良くて、ほぅ、と吐息が漏れた。
「・・・すまぬ、少し冷えてしまったようでござるな」
薫は無言で首を振り、両手をまわした。

もう一度彼女を温泉に入れたほうがいいか、などと考える。

無論それは実行されるのだが、彼の邪な思いつきのためそれは少し違う形で実行されることになる。
しばし繋がった状態でお互いの存在を感じていたが。
「そのまましっかり捕まっているでござるよ」










聞き返す前に、体ごと抱え上げられた       もちろん繋がったままで。










「きゃあッ!・・・・!・・あんっ、あんっ、あぁん!!」
驚きの悲鳴を上げたのは最初だけだった。
剣心が一歩進むごとに、振動が薫にも伝わって甘い悲鳴が何度も上がった。
ずん、ずん、と最奥まで打ち付けられ、その都度新たな官能を呼び起こす。
「やっ、けん・しん、の・・・ああっ!奥まで当たって・・・ひゃあんッ」



ぴたりと動きが止まったかと思えば、温かい湯が肩からかけられた。
どうやら己を抱えたまま湯の中に入ったらしい。



何度も体に湯をかけてくれるのはいいのだが、いまだ己の中にいる夫が一向に動きを見せない。
「剣心・・・?」
「温かいでござろう?」
「う、うん」
普段と変わらぬ表情で妻を気遣う夫に、薫も頷くしかない。
が、今まで散々燃え上がり、達する直前で止められたせいで中途半端な情欲の炎がちりちりと身を焦がす。



それは中にいる剣心とて感じ取っているはずだ。
そして、彼もまた欲望が爆発する寸前であることも。



ちらりと探るような視線を投げると、彼も気付いたようだ。
「限界に近いのはお互い様なのに何故拙者が動かないのか気になるのでござろう?」
言い辛いことをさらりと言われ、逆に薫の方が恥ずかしくなる。
「おろ、違うのでござるか?」
「違わないけど・・・剣心はまだ余裕なの?」
ぼそぼそと小さくつぶやいたつもりだが、音が反響して思いのほか声が響き、思わず身をすくめた。
それでもやっぱり剣心の表情は変わらない。

「そうではないことは、薫殿が一番よく分かっているはずでは?」
中にあるモノのことを指しているのだと気付くまでさほど時間はかからなかった。
薫の顔が見る間に赤く染め上がっていく。

そんな彼女をいとおしげに見やり、耳元で低く囁く。
それを聞いた瞬間、今度は耳まで真っ赤になって夫を見返した。
「い、今の、どういうこと!?」
交わる関係になってからかなり経つのに、いつになっても新鮮な反応を見せる妻に、自然と頬が緩んだ。
そして彼女の頬を両手で挟みこみ、瞳を覗き込んではっきり伝えた。










「薫殿に動いて欲しい       言葉通りの意味でござるよ」










もしかしたら・・・という剣心の予測どおり、薫は瞬きもせず、そのままの状態で固まっている。
ここまで予想を裏切らない人間も珍しいかもしれない。
再び耳元に唇を寄せ、
「薫・・・・・だめ?」
熱っぽく囁き、軽く彼女の耳朶を噛む。
夫からのおねだりに、ついに薫が折れた。
「・・・・・どうすればいいの?」

視線を逸らしながらも望みを叶えようとしてくれる妻が愛らしい。

「簡単なことでござるよ。ほら、こうやって・・・」
彼女の腰を掴んで揺らすと、
「あぅんッ」
可愛らしい喘ぎが零れた。
もっと聞きたくて続けてしまいそうになったが何とか抑えて、後は彼女に全てを委(ゆだ)ねた。
それ以上動こうとはしない夫に覚悟を決めたのだろう。
薫は浮力を利用しつつ、腰を上下に動かし始めた。
恥ずかしさも手伝ってゆっくりとしていたが、その緩慢な動きが敏感な箇所を刺激する。



「はぁ・・・薫の中、温かいよ」
「いやぁ、言わないでぇ・・・ッ」



きゅう、と締め付けられ、剣心も次第に恍惚となっていった。
「んん・・・っ!剣心、気持ちいいの?」
喘ぎながら問いかける薫を見上げれば、こちらもとろりとした瞳で夫を見つめている。

薫も慣れてきたのか、自分から悦楽を生み出そうとしている。
悩ましく腰を振り、淫らな女がそこにいた。










「ああ、これ以上ないくらいに・・・!」










もう限界だった。
支える程度に手を添えていた彼女の腰を掴み、自身を最奥まで捻(ねじ)りこませた。
「ひぅッ!!!」
いきなり敏感な所を強く抉(えぐ)られ、薫が仰け反った。



「かおる・・・薫!!」
「だめッ、はげし・・・!」
「うそ、でござろ?きもち・・・イイ・・・くせにッ」
「あんっ、はぁ・あっ・・・!!いやぁぁ、おかしくなっちゃう・・・!!!」



ばしゃ、ばしゃん、と二人の動きに合わせて無数の波が立ち、飛沫が上がる。
「んあっ、あっ・・・あぁん、ふぁっ、・・・もう・・・ッ」
「薫、もっと・・・もっと!」
「だめぇ!わたしもう・・・・・あっ・・ア       !!」
薫の体が硬直し、彼女を追う様にして剣心もまた己の情欲を解き放った。
何かに耐えるように奥歯を噛み締めたが、それでも完全に鳴き声を抑えることは出来なかった。
が、浅い呼吸を繰り返す妻の耳には届かないだろう。
剣心も何度か深呼吸を繰り返し、呼吸を落ち着かせる。

そして、糸が切れた人形のように脱力してもたれかかる薫を見れば完全に瞼を閉じている       今ので気をやってしまったのかもしれない。

愛しさがこみ上げ、ぎゅう、と抱きしめると、
「ぅ、ん」
己の腕の中で僅かに身じろぐ。
「薫殿」
声をかけると黒瞳が姿を現し、数回瞬きを繰り返して薫の意識が完全に覚醒した。
「大丈夫でござるか?」
「剣心、私・・・」
ぼんやりとしていたが、すぐ状況を把握したようだ。
「やだ、恥ずかしいッ」
赤くなった顔を隠すようにして、両手で覆う。
「恥ずかしがることはござらんよ。気をやったということは、薫殿に十分満足してもらえたということでござるし」
「バカバカ!そういうこと言わないでよ〜〜〜ッ」
手で隠しながら首を振る妻を見て、悪戯心が頭をもたげた。



「顔を見せて薫殿」
「ちょっと、いやだってば!」



夫に手を掴まれ、抵抗するが男の力には敵わない。
剣心が少し力を入れただけで、頬を薔薇色に染めた薫の顔が露になった。
「おろ、顔が真っ赤でござるよ」
おかしそうに笑いながら言う剣心に、

「誰のせいだと思ってるのよ!みーんな剣心が悪いんだからね!?」

少し恨みがましい目で上目遣いに睨まれ、剣心の顔がだらしなく緩んだ。
「もう!何でそんなに嬉しそうなのよ!!」
「いやいや、薫殿はいつになっても可愛らしいと」
「嘘ばっかり。どうせ子供だと思っているんでしょ!?」
ぷい、とそっぽを向いた薫の耳元で剣心が囁く。










「子供などとは思っておらぬよ」










低い声音に不覚にもどきりとした。
それは同時に中に留まっている剣心をやさしく締め付ける結果となる。
「く・・・!薫殿、そんな締めては・・・まだ満足できていないのでござるか?」
「な、何言っているのよ、全っ然違うわよ!剣心こそ、何で元気になっちゃってるのよ〜」
「これは薫殿がよすぎて」
「いーやー!!もうダメ!もう限界!離れてよー!」
「もう遅いでござるよ。薫殿のせいでこうなったのでござるから、しっっっかり責任をとってもらねばッ」
「え・・・ちょ、ちょっと待って待って・・・いやあぁぁぁぁあぁぁあぁ!!」










再び水面には波が立ち、水音が辺りに響き渡った。
そしてその中で官能に酔う男女の鳴き声が混じっていたという。










【終】

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表にある「実家に帰らせていただきます!」の裏Ver。
頼まれていた分が終わったけど、勢いで続きを書いちゃったんですよねー
その後某管理人様が出したオフ本が18禁モノということで、

「いただいたコレ、ゲスト原稿として載せていい?(゚∀゚)」

σ(^◇^;)としてはついでで書いたようなブツだったんですが、某管理人様が18禁本を出すきっかけになったと思えば書いてよかったと思います(笑)
しかし再UPのために手直ししましたが、健全モノより裏モノを読み返すほうがはるかにダメージ受けますね・・・!
なにこれ拷問?てなくらい読み返した後の疲労感が半端ないったら←瀕死