数分後



「お」
「よお」
「おろ?」



三叉路で出くわした三人の男の背中にはそれぞれ背負う者がおり、同じ格好、同じ表情のままお互いを見合わせた。



「恵さん・・・燕ちゃんも?一体どうしたの?」
「薫さんこそ、どうしたんですか?」
「まぁ・・・酔狂でこうしているわけじゃないことは確かね」

それぞれの足を見ればなぜ背負われているか分かるだろうに、それでも問わずにはいられない。
瞳を瞬かせ、ひと時の沈黙が流れた。










「どうやら皆同じ理由のようでござるな」

笑いを含んだ声に、場の空気が和(やわ)らぐ。
背負われている側が決まり悪そうに笑みを交わすが、背負っている側はそれには気付かない。










「しっかし、いくら小さい嬢ちゃんとはいえ、弥彦にゃ辛いだろ」
「何のこれしき!まだまだ余裕だぜッ」
強気な言葉とは裏腹に、足がふらついているのは隠しようが無かった。
「ねぇ弥彦君、やっぱり私、下りるから・・・」



背負われている者の性格を考えれば当然の言葉といえよう。
しかし、足を覆うようにして手ぬぐいがぐるぐる巻きにされているのを見れば、年長者の二人としては見過ごすわけにはいかない。



「駄目よ、燕ちゃんも怪我しているんだから!私が下りるから、剣心、燕ちゃんをおぶってあげて」
「その必要は無いわよ、この大男に背負わせなさいな。ま、力だけはあり余っているから二人一緒でも大丈夫だと思うけど」
「・・・オイ」
言葉に含まれる皮肉を敏感に感じ取り、当の本人は些(いささ)か気分を害した様子。
彼らのやり取りなど耳に入っていないのか、この中で一番の年長者はやや思案してこう切り出した。










「しかし、赤べこまでまだ距離があるのも事実。確かに弥彦には難しいかも知れぬな・・・少し待ってもらえれば薫殿を送り届けてからすぐ戻るが」
「お前ら・・・完全に俺が途中でへばることを前提に話を進めているだろ!!」










気遣ったつもりが、少年の苛立ちを更に増長させる結果となったらしい。
それを察したのは赤毛の男だけ。
いや、その、と取り繕うように言葉を探すが、大男は全く意に介さず、のんきな口調で諭した。



「無理すんなって。この俺ですら背負った女狐が結構重く感じてるんだぜ?」
「治療するところを増やしてあげましょうか?」
すぅ、と目が細くなり、新たな戦いが始まるかと思いきや。



「うう、やっぱり私も重いんだ・・・」
「おろ!?何でそこで薫殿も含まれるのでござるかッ」
胴着姿の少女が涙声になったのは他人事ではないと痛感しているからなのか。
ずーんと沈む少女に剣客が慌てる。



一方は緊迫した空気をかもし出し、もう一方は別の問題が発生したようだ。










「あ、あの、私本当に大丈夫ですからッ」
さすがに今の状況に耐え切れなくなったのか、小さな少女が叫ぶように言い放った。
しかしそれは彼女を背負う少年の心を更に硬化させただけに過ぎない。

無論、少女は自分の言葉が引き金となったことには気付いていないだろうか。










「燕、降りるな!お前一人くらい、このままで走っていけらぁ!!」










自棄(やけ)気味に叫び、言葉通り彼は少女を背負ったまま走り出した。
「ちょっと弥彦!?」
制止する声は恐怖に引きつる悲鳴にかき消された。

「あーあ、本当に走っていっちまいやがった」
「放っておくの?」
「しかし途中で転びでもしたら燕殿も一緒に転んでしまうし・・・」

小さな背中が徐々に小さくなっていくのを見送りつつ、ため息一つ。
後に残された男はお互いに視線を投げ、
「しゃーねぇ、行くか!」
「それしか方法は無いようでござるな」
「え???ちょ、ちょっと!!」



意味を聞こうとする前に男達が駆け出し、背中におぶわれている者は落とされないように慌ててその首っ玉にかじりついた。



「この馬鹿!何であんたまで走るのよッ」
「黙ってねえと舌噛むぞ」
「薫殿もしっかり掴まっているでござるよ」



悲鳴が仲良く重なり、その場に残されたのは大きさの違う六つの足跡と、賑やかな口論の余韻だけであった。










【終】

小説置場



拍手にある「おんぶシリーズ」完結編。
単に登場カポーをごちゃ混ぜにしただけです(笑)
最初は拍手と同じように台詞だけだったんですが、それだけだと分かりづらいかと思い、補足しました。
・・・個人名称出てませんが、わ、分かりますかね?(汗)

いやぁ、全部書き終わった後、ちょっと弥彦をいじってみたくなりまして・・・この話の中では弥彦がメインだったりします。
少年だからこそやってしまう無茶と、少年のような無茶をやる大人を書きたかったのかもしれません←え、ヒロイン達の立場は(汗)

今更ながら長時間おんぶってのもきついのではなかろうかと。
お姫様だっこよりかは楽だとは思いますが・・・・や、実際やったことないしやってもらったこともないのでどうなのかは不明です(^^A;アセアセ